Trickle を使い始めてから4年が経過しました
「Trickle」というサービスを使い始めてから4年が過ぎました。このサービスは、自分の理解では以下の2つの機能を併せ持つサービスに見えます:
- 話題(トピック)ごとに文章・画像(アクティビティ)を投稿し、SNS のタイムラインのような UI でそれを閲覧したり、GitHub の芝生 (Contribution Graph) のような UI で俯瞰したりできる「生活のメモ・ブログ」的な機能
- 他人のアカウントのトピックを購読(サブスクライブ)して読んだり、自分のと他人のアクティビティを、さらに新しいアクティビティからリンクしたりといったような「限定的かつ風変わりな SNS」的な機能
(詳しいサービスの概要や機能については、開発・運営をされている丸山さん(@h13i32maru)の記事「見るより気兼ねなく書く、Trickleというサービス」や「Trickleの機能紹介(アクティビティログサービス)」をお読みください!)
その丸山さんが今月「Trickle Advent Calendar 2022」を企画されました。それを見て、これに便乗して「自分のこの4年の生活を Trickle の利用状況を通して振り返ってみる」というテーマで記事を書くと面白そうだと思いました。ということで、このアドベントカレンダーの5日目の記事として、自分の Trickle ユーザーとしての歩みを振り返っていきたいと思います。
1. Trickle を使い始めたきっかけ
Trickle のサービス開始日は 2018/11/12 です1。自分のアクティビティを見てみると、最初の投稿はその翌日のようでした。当時私は大学生でしたが、メンタル的な問題を抱えており、休学を開始したばかりでした。
SNS は Twitter と Mastodon を利用していましたが、上記の経緯もあり、主に以下の2点を要因とするストレスに敏感になっていたように思います:
- タイムラインやトレンドに雑多な情報が多く流れてきて、感情が揺さぶられる
- 気軽に投稿する気持ちになれない要因が存在する(自分の大小さまざまな内容の投稿が一律に他人から見られる。これによって、自分の投稿をめぐって遠慮や恐れを感じることがある。また、投稿によって望まないコミュニケーションの機会が発生する可能性がそれなりに高い)
おそらくこのような背景から、ネット上における自分の居場所を探していたのだと思います。そんな時、はっきりした経緯は覚えていませんが、偶然丸山さんの Trickle のリリース告知記事を見つけました。
この記事を読み、Trickle は上記の自分の悩みが解決されうるサービスだと感じました。
例えば Trickle では、投稿(アクティビティ)はユーザーがアカウント内に作ったトピックのそれぞれに対して投稿されます。そのトピックを購読(サブスクライブ)してくれるユーザーは、自分自身というよりはそのトピックに興味を持ってくれているであろうことが期待できるので、トピックの範囲の投稿を気兼ねなく行えます。
そして、他人の投稿を見る側としては、「他人のアカウントをフォローする」ということは行えず、「他人のトピックをサブスクライブする」ということだけが行えるよう設計されています。これにより、自分がサブスクライブしたトピックの範囲だけがタイムラインに流れてくるであろうことが期待できます。「雑多な情報が流れてくる」危険がかなり減るため、安心してタイムラインを見る気持ちになれます2。
コミュニケーションの問題にも気が配られています。一般的な SNS が提供しているような機能のいくつかが意図的に提供されていません。前述の丸山さんの「見るより気兼ねなく書く、Trickleというサービス」という記事(これは当時読んだ記事ではありませんが、同じようなことが書かれています)には
Trickleには「いいね」も「メンション」も「リプライ」もありません。このようなSNSによくあるコミュニケーション機能を提供していないのは、Trickleはあくまでも自分のアクティビティを書き留めていくサービスだからです。そのためコミュニケーションを強く誘発するような機能を公式には提供しないことにしています。
と書かれています3。実際、他のアカウントへのアクションは大体「トピックのサブスクライブ」と「アクティビティへのリンク」に限定されています。後者の「アクティビティへのリンク」も、リプライのように気軽にスクロールできてしまうものではなく引用リツイートのような形なので、会話の用途には使いづらいように作られているように感じます。
一方で、
(前略)そういうわけで僕は 「自分が主体であり、自分への影響をコントロールしたい🧘でも完全に一人なのは少し寂しい😥」 という気持ちに気づき、これを実現できるようなサービスとしてTrickleを作りました。
とも書かれています4。これはとても共感する指摘で、ストレスの影響から逃れたいからと言って、一人になりたいわけでもないというのは私も本当にそうでした。そして Trickle では、前述した他のアカウントへのアクションの方法が残されているので、「他人との何らかのつながりは持ちたい」という欲求は叶えてくれます。
このように、Trickle は SNS 上でのさまざまな情報や他人との付き合い方に関して、独特のやり方で問題を解決しようとしており、非常に興味深く感じたのを覚えています(そしてこれは今実際にうまく機能していると思います5)。
この記事をきっかけに私は Trickle に魅力を感じ、使い始めることになりました。
2. Trickle をどう使ってきたか
自分がどのように Trickle を使ってきたかを紹介をしていきたいと思います。
Trickle 自体の使い方のメモ
使い始めた当初はサービス開始からまもなく、既存 SNS と思想が違うこともあって、Trickle ユーザーの間でも Trickle にどのような活用方法があるのか模索する動きがありました。私も自分なりに考えた使い方や、他人がどのように Trickle を使っているのかをメモしたりしていました。
趣味プログラミングの勉強状況や Tips のメモ
使い始めた頃はちょうどプログラミング言語の Rust に入門してまもない頃だったので、Rust 言語の学習に伴う覚書や、やったことの記録をしていました。読み返すと、初歩がつかめてきた後は「Go言語でつくるインタプリタ」の Monkey インタプリタを Rust で書いてみたり、Rust と C/C++ ライブラリとの連携方法を模索したりしている様子が窺えました。
プログラミング言語 Haskell の勉強も記録しています。こちらはあまり進んでいませんが……。
他に、「ゼロからの OS 自作入門」という本の写経を行っていた記録もしていました(写経を終えた時には感想記事も書きました)。この作業を行っていた頃は自分の精神的な状況も回復に向かい始めており、成果を Twitter でもツイートしていました。とはいえ、後から振り返りたい時に一覧性が高いのはやはり Trickle の方です。
その他の勉強記録
一時期、統計学や数学の勉強のメモ用途で積極的に使っていました(埋め込みツイートでは見切れているかもしれませんが、以下のツイートの画像下部にそのアクティビティがちらっと映っています)。結果的に数冊読破することができて達成感もありました。
ここ数年お世話になっている活動(アクティビティ)記録アプリの Trickle が昨日大幅にアップデートされてますます快適になりました😊
— SuitCase (@pickled_chair) February 6, 2021
投稿によって Github よろしく芝生を生やせるのが楽しいアプリです。https://t.co/3XzTYu13uK #trickleappme pic.twitter.com/7DYfXvuOpc
私は大学では数理科学をあまり積極的には学ばない学部にいましたが、途中から自習したい欲求が芽生えました。しかし自習する内容はどうしてもごく初歩的なものになり、SNS やブログ上であまり人に見せびらかす意味のないもののような気がしていました。一方、Trickle への記録は何となく抵抗がありませんでした。いつ何を勉強したか振り返りがしやすいので、その便利さを利用したい気持ちが勝ったのかもしれません。
ゲームのプレイ記録
私はあまりゲームをプレイする習慣がないのですが、以下の2つのゲームはトピックを作ってプレイ状況を記録していました:
Walkr: スマホの歩数計を利用したゲームです(実はこのゲーム自体、Trickle で他の方のアクティビティを見て知りました)。メンタルの調子を整えるのに散歩が良いということで、散歩の習慣をつくるためにプレイしていました。キャラクターや惑星のデザインが絵本みたいでかわいいです。現在はゲームなしでも散歩の習慣を維持できるようになったので、ゲームをすることはなくなってしまいました。
Woodle: 今ならまだ記憶に新しいと思いますが、一時期 Twitter で大流行りした5文字の英単語当てゲームです。今トピックを振り返ってみると、流行っていた時期に自分も5ヶ月くらい継続してプレイしている様子が窺えます。実は最初はプレイ結果を Twitter に放流していましたが、あまり頻繁にツイートする人間でもないのでタイムラインが Woodle の結果で埋め尽くされがちになり、それを避けるために Trickle の方で記録するようになりました。流行が去った頃に自分も飽きが来始めたようで、トピックの更新がそこで途切れました。
他人のトピックを眺める
特に多くサブスクライブしているのはプログラミング関連のトピックだと思います。
初めはそれらのトピックから幾らかの知識を得ることを期待していたところがありましたが、流速が非常に緩やかで、内容もほとんどのものが日記的なので、あまりその目的では活用することができていないと思います(自分のトピックを見ても、多くは日記的な内容に落ち着いている気がします……)。
ただし、時折プログラミングについてのトピックが更新されると 「お、やってるやってる」という感じで親近感を覚えます。自分も頑張るか、とモチベーションを新たにすることができる気がします。この点で、「トピック単位のサブスクライブ」というサービスの設計はありがたかったです。
3. 最近の利用状況
実のところを言うと、最近は Trickle の利用頻度が減っています。なぜなのかははっきりとは分析しきれていませんが、おそらく次のような状態なのではないかと思います。
Trickle 利用開始から、私のメンタルの状態はだんだんと改善していきました(一直線に、とは行きませんでしたが……)。昨年はついに大学を卒業することができました。完全に本調子とは言えないのでまだ就職できていませんが、遠くないうちに働き始められるという希望を持って生活しています。
メンタルが回復して明らかに変わったのは、他人との交流を避けなくなってきたことです。Twitter の利用頻度が少し上がり、他人との交流の欲求をそちらで満たすようになってきました。また昨年から、OSS である AI 音声合成ソフト「VOICEVOX」の開発に参加するようになりました(これについては後日、別の記事で詳述したいと思っています)。その関係で開発者同士のコミュニケーションを行うようになり、他人との交流の機会が増えました。
一方で、メモ書きはネットに公開せずローカル環境やクラウドに保存するようになってきました。
以上を考え合わせると、Trickle でのアクティビティの投稿は、自分の中では、単なるメモ書きにとどまらず他人との接点として機能していたのだと考えられます。他人との接点を得たい欲求が他の場所で満たされるようになった今、相対的に Trickle の利用頻度が減ってしまったのかもしれません。
4. 今後の利用に向けて
最初に説明した通り、当初は自分のメンタル的な問題もあって、SNS のタイムライン閲覧や自分が投稿することをめぐって生じる微妙なストレスを避けることが、Trickle 利用のモチベーションとなっていました。
一方で、メンタル的な問題が解消に向かっている今、自分の Trickle の利用頻度は減ってきています。
私はこのまま Trickle を使わなくなるのでしょうか? それは正直なところ、自分でもわかりません。しかし少なくとも、まだ活用方法を模索しているということは確かです。
今回、Trickle をどう使ってきたのかを振り返ってみて、以下のようにより詳しくわかったことがあります:
メンタルが弱っている時は、「試行錯誤してはみたがやはりダメだった……」的な情報を人前に晒すことが普段以上に怖くなってしまう。おそらく、無駄な足掻きのように他人から捉えられたくないのだと思う。Trickle でも状況は多少同じかもしれないが、何となく Twitter 等よりは投稿しやすい雰囲気を感じる(実際、自分が Trickle に書いた内容の多くは、今 Twitter でツイートしようとしても書くのをやめる気がする)。
「あまりに単調な記録を SNS に放流することは、他人から煙たがられるのではないか」という恐れがあって、そのような投稿を避けたい気持ちが生まれる。Trickle ならそんなトピックは一般的であるように思うので気軽に投稿できる。
Twitter をはじめとする一般的な SNS は「アカウント単位のフォロー」をするので、フォロワー数が自分への好意の数であるとどうしても無意識に感じてしまう。一方で、Trickle では「トピック単位のサブスクライブ(アカウント単位ではない)」をするので、購読数が多くても少なくても、それを自分そのものへの評価と無意識に捉えることがあまりない気がする。したがって、「こんな投稿したらフォロワー数減っちゃうよな……」みたいな投稿を Trickle ではしやすいと思う。別にそのような投稿を多少人目につくような場所でしても人間としては何もおかしくないのだ、という暗黙のメッセージを Trickle から受け取ることができるので、自己を肯定しやすい気がする。
このように、他人と積極的に交流したい状態と、自分の世界の中だけで収めたい状態のはざまにあるときに、Trickle は居場所として機能しやすい気がしました。
だいぶ回復してきた今でも、精神的な状態はいつも快調という訳には行きませんし、元気な時でも投稿内容によってはあえて人前に投稿を公開するのを躊躇するケースもあると思います。そうした場合に、壁打ち的に、しかし他人と適度に交流できる可能性を残したまま活動する場所として、Trickle という居場所を今後も生かしていきたいです。
5. 最後に
自分がメンタル的に特に大変だった時期の重要な居場所の1つが Trickle でした。大学を休学してから、復学・卒業へと向かうことができた今、Trickle および作者の丸山さんには本当に感謝をお伝えしたいです。この場を借りて御礼申し上げます。
今後も自分の生活スタイルが変わっていくことが予想されるため、Trickle を使ったり使わなかったりという変動はあるかもしれません。記録できる文字数が多めだったり、画像が保存できること、GitHub のタイルのような UI や年間データへのアクセスができることで振り返りがしやすいので、まだまだ活用方法を考え中です(Markdown 記法の導入が検討されているとのお話もあり、楽しみにしています)。これからも Trickle を応援しています!
自分が Trickle を使い始めるきっかけになった丸山さんのブログ記事の投稿日。この記事は Trickle のサービス開始と同日に投稿されているようです。 ↩︎
Trickle は当初は「All Activities」というすべてのユーザーの投稿が流れるタイムラインが存在していました。ここだけは雑多な情報が流れる場所だったと思います。ただし、見たくなければこれを見ないでひたすら購読したトピックだけを見るという選択肢を取れますし、コンディションが良い時はあえて自分から見にいくこともありました。その後、機能の整理が行われて All Activities はなくなりました。 ↩︎
実際には、使い始めた当初の自分は Trickle レベルの希薄なアカウント同士のコミュニケーションであってもそれなりのストレスを感じることがありました。それくらい当時の自分は調子が狂っていました。しかし考え方を変えると、Trickle ではない場所ではもっとひどいストレスを感じたかもしれません。 ↩︎